【轍のバラッド:第一話】

 ドナウエッシンゲンを後にしたディーターとジムゾンは一旦ザンクトブラジエン修道院領に入った。ところが、領内で出会った元司書仕えだという瀕死の女性の依頼を受けてウィーンへ向かう事となった。二人は新教勢力の領地を迂回しながら北上し、中継地点のミュンヘンに向けて南下していた。新教軍の攻撃により一時は陥落したミュンヘンだったが、スウェーデン王の戦死によって今は再びバイエルン大公の手に戻っている。傾いてもなお強い日差しが容赦なく照りつける街道を歩きつつ、ジムゾンはぐったりした顔で独り言のように呟いた。
「何か聞こえますね」
 横に並んで歩いているディーターもまた、前を向いたままで呟き返した。
「馬車だな」
 先程から、二人が歩く後方より、緩やかな蹄の音と車輪の軋む音が聞こえていた。音は次第に大きくなっていっている。
「荷馬車か」
 その言葉にジムゾンは、何故?と問いかけるようにディーターを見上げた。ディーターはジムゾンに目は向けず、前を向いたままで続けた。
「動きがえらく鈍い」
「けが人でも乗せているとか」
「まさか」
 ディーターは鼻で笑って振り返った。視界に入ったのは紛れも無く荷馬車だった。が、荷を積んでいると思しき馬車の回りには軽微ながら武装した兵が数名連れ添い、ただの荷馬車という風では無かった。
「隊商……?違うな」
 訝しげなディーターの声を聞いて、ジムゾンもまた立ち止まって振り返った。隊商と言うには規模が小さい。考えているうちに荷馬車が目前に迫ってきたので、二人は道を開けた。目の前をゆっくりと通り過ぎていく荷馬車の幌には紋章が記されていた。
「緑の帽子……司教領の紋章ですね。獅子に銀の斜め帯ですから、バンベルクでしょう」
 紋章を目で追いながらジムゾンが呟く。
「わかった。ビールだ。三月ビール」
 人狼の嗅覚で僅かな匂いを探っていたディーターはハッと目を見開いた。三月ビールとは、寒さが保てる限界の三月に仕込まれたビールの事だ。できあがるのは丁度今頃の季節である。
「よくこんな中運んできたな。おおかたミュンヘンあたりまで運ぶんだろ」
「百マイル以上離れてますよ?」
 聊か嬉しそうなディーターにジムゾンは冷めた言葉を返す。
「それをおしても輸送させるくらい美味いんだよ。知らないのか、バンベルクの燻製ビール」
「知りませんよ。お酒苦手なんですから」
 ジムゾンは口を尖らせて言いながら歩き始めた。輸送隊は鈍い速度ながらも大分小さくなっていた。その行く手には林が広がり、ジムゾンとディーターの二人が目指している大きな町・インゴールシュタットも見えた。恐らく、今夜は彼らもあの町で休息を取るのだろう。
『あの町なら閉鎖空間も無いでしょうし。仲間が居た所で厄介な事にはならないかとは思いますが……』
 ジムゾンがぼそりと囁く。閉鎖空間になりえる場所で、人狼を初めとする役者が揃ったらまた、どちらかが滅びるまで終わらない殺し合いになってしまう。人間にとっても割に合わないが、人狼にとっても同じことだ。それゆえ、二人が集落に立ち寄る時には先ずディーターが様子を見て、ジムゾンが後で入る事は最早一種の儀式のようにもなっている。ジムゾンの言うように、これだけ規模の大きな町となると、その心配は無いのだが。
『野宿続きだったんだから宿くらい取れ』
『無事を祈る儀式みたいなものですから。縁起を担いでみます』
 二人は町を囲む林付近で別れ、ディーターは一人町の中に消えていった。


+++


 ジムゾンがついてきていなくて良かった。輸送隊が降ろしたばかりの燻製ビールを酒場の片隅であおりながら、ディーターは心底そう思っていた。
 何はさておき酒場に入ったディーターだったが、酒場は既に出来上がった傭兵の集団でほぼ占拠されていた。普通の客達が次々と出て行く中、ディーターは平然と待望のビールを胃の腑に流し込んでいた。が、そのうち悪酔いした者らが因縁をつけてきた。黙って取り合わないディーターに苛立った一人が剣を抜き、場内は騒然となった。だがディーターにとってはよくある事で、何時ものように彼らを表に叩き出し、何時ものように追い払った。そして酒場は、漸く落ち着きを取り戻したのだった。ディーター一人ならこうやって容易く片付くが、非力なジムゾンが一緒に居たら色々ややこしい事になっていたかもしれない。
 傭兵集団の横暴ぶりに困り果てていたという店主の愚痴を聞き流していると、ふと階段傍の隅の席に目が行った。包帯だらけの裸な上半身に上着だけを羽織った金髪の男が一人、包帯のかかっていない片方の目でじっとこちらを見つめていた。歳は二十代後半、と言った所だろうか。
『強いな』
 聞こえてきたのは人狼の囁きだった。ディーターは視線を戻して囁き返した。
『そりゃどうも』
 男を見た瞬間、不意に昔の自分を思い出した。傭兵としての最後の戦だったルッターの戦いで負傷した時は、丁度この男と同じように包帯だらけの体だった。
『傭兵か?』
『昔な。あんたは?』
『バイエルン軍の騎兵だ。名はシモン。シモン・テオ・フォン・ベルネット』
『ディーター・ヘルツェンバイン。よろしく……と、言ってもすぐに発つが』
 バイエルンの兵卒、となると休戦の切欠となった昨年冬のリュッツェンの戦いで負傷したのだろうか。スウェーデン王はあの戦いで戦死したが、皇帝軍はかなり劣勢で撤退に追い込まれたと聞く。今は亡き伯爵殿よろしく、シモンも軍を離れてこの町で療養しているのだろう。そこまで考えた所でシモンの囁きが思考を破った。
『……どんなに強くても、火器相手のこの時代では剣なんて何の役にも立たない』
 自嘲ぎみな囁きだった。
『あんたは戦生活に見切りをつけて正解だったよ。鍛錬なんて、クソ食らえだ』
 一世紀前あたりから実戦に投入されはじめ、今や欠かせない存在となったマスケット銃や大砲は、それまでにあった騎士の物語を消し去った。シモンの言うように、どれだけ鍛錬を積んだ剣士であっても火器の前にはほぼ無力と言っていいだろう。皮肉と自嘲に満ちた囁きへの返答も見つからず、ディーターは黙って聞いていた。騎士の物語を知らず、勝つべくして勝つ為に戦ってきたディーターはマスケット銃を使うことにも何ら躊躇いは無かった。砲撃の餌食となった味方は野に無惨な骸を晒したが、それは敵も同じ事だった。それゆえ、今まであまり深く考えた事が無かったのだった。店主の喋り声だけが響く中、一人の客が入ってきた。
「すまねえが、もうすぐ看板……」
 疲れた調子で呟きながら入り口に目を向けた店主は、入ってきた客が誰なのか気付くとふう、と小さく溜息をついた。
「なんだ、あんたか」
「ただいま」
 客はにこやかに挨拶した。年の頃にして二十後半、シモンと同じくらいの年齢の男だ。だぶだぶの服を着て、頭には使い古した頭巾を被っている。蜜柑色した長い巻き毛が顔を覆うようにかかり、くるっとした瞳や鼻あたりのそばかすが人懐っこそうな印象を与える。
「エルンスト」
 呼びかけて、シモンは顔を僅かにほころばせた。どうやら知り合いらしい。
「酒でも飲んでたのかい?シモン」
「いや。ちょっと騒がしくなって、気になって降りてきてた」
 シモンの言葉を受けてエルンストはがらんとした酒場を見渡した。
「さっきまた傭兵どもが騒いでね」
 エルンストの様子に気付いた店主が先程の騒ぎの顛末を説明し始めた。
「ごちそうさま」
 それを機に、ディーターは代金分の銀貨をテーブルに置いて席を立った。宿屋になっている階上の客室へ向かおうと階段を上り始めたところで、エルンストに体を支えられているシモンの姿が目に入った。座っていたので気付かなかったが、シモンの左足は腿から下が失われていた。
『砲撃で吹っ飛ばされた』
 ディーターの視線に気付いたシモンはまた自嘲ぎみに囁いた。シモンが先程何故あんな事を囁いたのか、ディーターはやっと理解できた。
『騎士に憧れてチロルから出てきて、やっと騎士になれたと思ったら一瞬でこんなザマだ。まあ、生きているだけ、儲けものだけどな……』
『そうだな。連れが居る事も』
 暫くシモンからの返事は無かった。ディーターが階段を上りついた所で、漸く一言だけ返ってきた。
『エルンストは幼馴染だが、人間だ。……何時までも一緒には居られない』


+++


「ふぁっ」
   ジムゾンは肩に強い衝撃を感じて跳ね起きた。目覚めたばかりでぼやけた視界には穏やかな青い闇が広がり、目の前を流れ行くドナウ川の水面には丸い月がゆらゆらと揺れていた。夕刻、ディーターと別れた後この川縁まで来て景色を眺めていたのだが、そのまま眠ってしまっていたようだ。
 今の衝撃は何事かと辺りを見回すと、背後に見慣れない男が二人立っていた。一人はどことなく幼さも残る二十後半くらいの野暮ったい男で、屈んでジムゾンを覗き込んでいる。中途半端に上げたまま止まっているその節くれだった手が、衝撃の正体に違いない。
「や、これはブラザー」
 もう一人の男がジムゾンの胸元を見て僅かに目を見開いた。口ひげを生やした神経質そうな男の胸元にもジムゾンと同じようなロザリオが輝いている。ジムゾンの胸元にロザリオを認めた瞬間、二人の男はややホッとした表情を浮かべた。
「おい、もういいぞ」
 口ひげの男が周囲に呼びかけると、闇にまぎれていた数名の兵達がぞろぞろと後方へ下がっていった。口ひげの男の部下なのだろうか。高位と言うわけでもない僧侶の身で兵を従えるとなると、その役職は限られて来る。男の身に纏う衣服は白と黒で統一されている。白と黒の聖服は中世の異端審問で有名な説教者修道会の証である。
「どうか、したのですか?」
 ジムゾンがまだ少しぼんやりしたまま問い掛けると、口ひげの男は片方の眉を跳ね上げた。同じ聖職者だとは認めるが、名乗るのはそちらが先だと言わんばかりだ。
「すみません。私はマリアラーハ修道院所属の司祭で、ジムゾン・フォン・ルーデンドルフ」
「わわっ」
 名を言った途端、野暮ったい男が声を上げた。実家であるルーデンドルフの領はケルン大司教の管轄下にある辺境で知名度など無いに等しいが、そこに嫁いだ母は先のバイエルン大公の娘であり、現大公やケルン大司教の姉である。バイエルン領内ならばルーデンドルフの名を知る者もそう少なくは無いだろう。
「これはこれは。大変失礼しました」
 口ひげの男は野暮ったい男を押しのけ、恭しくジムゾンの手を取った。
「私はロタール・ギレッセン。ご覧の通り、説教者修道会所属の異端審問官です。こちらはヨハン。修道士見習で私の部下です」
「よ、ヨハン・メーリヒです。ど、どうも」
 ヨハンはおどおどしながらしきりに両手を組み合わせている。先ほど肩を叩いた事で咎められるとでも思っているのか、小さな青い瞳には怯えの色すら見える。ロタールはというと、一応敬意を払ってはいるようだが、鳶色をした切れ長の瞳はなおもジムゾンを品定めしている。ただの異端審問官ならさほど問題は無いが、人狼討伐に特化した共有者と呼ばれる異端審問官だったなら狩人や占い師と並んで人狼の天敵だ。できる事なら何事も無くやり過ごしたいという心が見透かされているようにも感じられて、ジムゾンは内心焦っていた。
「ところで、何かご用ですか?」
「それは私がお伺いしたいところなのですよ、神父殿」
 ロタールは大仰な調子で言って笑みを浮かべた。
「かのヴィッテルスバッハ家の血を継ぐお方が、こんな時間にこんなところで、しかもたったお一人で何をなさっているのです?」
「今はただの神父です」
 ジムゾンは反射的にムッとした表情で言い返した。
「ミュンヘンまでの旅の途中で連れの者とはぐれたのです。はぐれた時はここで待ち合わせる、という約束をしているので待っているだけです」
「それはまた、けしからん従者ですな。しかし何故このような場所を待ち合わせ場所になさったので?城に行かれれば安全でしょうに」
 インゴールシュタットの城主はバイエルン大公の妹婿にあたる。当然ジムゾンも幼い頃から見知っているのだが、修道院に入った時から家は捨ててきたようなものだ。ディーターと二人、ただの平民として旅をしている中で親戚を頼るのも筋違いだと思う節もあった。
「連れも私も、華美な場所は苦手なのです」
 唐突に、ロタールが笑った。
「ハッハッ……そうですかそうですか。清貧を尊ぶ聖ベネディクトの教えに忠実なお姿、感服致します。ですが野宿は危険です。あなたの従者もきっと、あなたがここに居ないと知れば城へ来るでしょう。それより、ご城主のフォン・ブランシュに頼んでもっと頼りになる従者をつけて貰えばよろしい。さ、参りましょう。城までお連れしますよ」
 ロタールから一方的にまくし立てられ、ジムゾンが気付いた時には、先ほど後方に下がった兵達によって周囲を取り囲まれていた。ジムゾンは不快げにロタールを一瞥し、渋々それに従った。


+++


「やあ!久しいねえ、ジムゾン君」
 城につくやいなや、快活な声がジムゾンを出迎えた。声の主である金髪の男はジムゾンの姿を見つけると大股で歩み寄ってきた。マテウス・ゴットリープ・フォン・ブランシュ。ジムゾンの叔母の婿であり、このインゴールシュタットの城主である。
「お久しぶりです。叔父様」
 ジムゾンは複雑な表情で微笑んだ。
「こんなに大きくなって。最後に会ったのは修道院に入る前だったから、二十年は経っているか。いやいや、でもすぐに解ったよ。マリア・アンナにそっくりで!」
 マテウスは懐かしさ余ってか、昔話から今の自分の家族の事まで熱心に語って聞かせた。怒涛のようなお喋りを聞きながらジムゾンがチラとロタールの方を見ると、ロタールはそしらぬ顔であさっての方向を向いていた。ジムゾンはマテウスのお喋りが終わるのを辛抱強く待って小声で問い掛けた。
「叔父様、あの方達は?」
 マテウスは漸くロタールの存在に気付き、呼びかけた。
「ギレッセン殿、うちの甥っ子をわざわざ連れて来てくれて有難う。もう君達も休みたまえ」
「では」
 短い別れの挨拶と共に、ロタールとヨハンらは踵を返した。一切の無駄な動きもなく去っていくロタールの後姿を見つめながら、ジムゾンはどうも好きになれない男だなと思った。一口に聖職者と言っても性格は様々だ。全員が全員、亡き師・アロイスのように優しい者ばかりではない。ジムゾンが所属しているマリアラーハ修道院にもロタールと似た風な修道士も居た。それぞれにそれぞれの価値観があるのだから、一概に良し悪しの判断はできない。そうと解っていても、ああいう類の人間を受け入れるのは難しいものだとつくづく思うのだった。
「気がつかなくてすまないね。あっちで酒でも飲みながらにしよう。三月ビールが届いているんだよ。それとも茶の方が良いかな?」
 呆然と二人の後姿を見送っていたジムゾンの背中に大きな手が触れた。苦笑いするマテウスに連れられて、ジムゾンは応接間へと通された。淡いランプの光が灯る室内で、ジムゾンは久々の柔らかい長椅子に体を埋めた。
「話すと少し長くなるんだが。少し前に、妙な事件があってね」
 向かいに腰掛けたマテウスの表情が曇る。ジムゾンは運ばれてきた香草茶のカップを両手で持って口元に運び、言葉の続きを待った。マテウスは茶を一口飲み下してから漸く口を開いた。
 一月ほど前に、この町で不可解な死を遂げた者が居た。裏通りに住むスリを生業とする男で、胴体を真っ二つにされて死んでいた。同業の小競り合いか、はたまた掏ろうとした相手から返り討ちにあったのか。初めはそう思われていたのだが、どうもおかしいぞという話になった。それというのも、明らかに動物か何かに食いちぎられたような跡があり、遺体の一部が欠損していたからだった。マテウスはそこまで語ると、溜息をついて片手で額を支えた。
「少し薄気味悪い話だが、獣が死肉を漁ったのかもしれないし、放っておくつもりだったんだよ。ところが、噂話が瞬く間に広がっていって、終いにはおとぎ話の人狼の仕業だとまで言う者も出始めた」
 十中八九、その人狼の仕業です。などと内心で思いつつ、ジムゾンは無言でカップを口に運んだ。
「あまりに皆が不安がるのでね。私も捨て置けなくなって司教会に相談してみたところ、異端審問官……つまり、ギレッセン殿がはるばるプレンツラウから派遣されてきたというわけなんだ」
「異端審問……ですか」
 ジムゾンは怪訝な表情を浮かべた。
「そうなんだ。この事件と一体何の関係があるんだと思ったんだが、司教会は事件そのものよりも噂の出所が何処なのか探ってるようなんだ。そんな不届きな迷信を信じているのは誰だ、って」
「噂による混乱の方を問題視したのですね」
「そう。直接の解決にはならないだろうが、審問官が来たという事で町の混乱はぴたっと収まったんだ。それに関しては本当に良かったと思う。――が」
「何か問題でも?」
「うん。どうやら奴さん、内々に本気で人狼を探してるそうなんだよ」
 ジムゾンは思わず咽そうになった。嫌な予感が的中したばかりか、これでは自分から敵の懐に飛び込んでしまったようなものではないか。
「おかしな話だろう。表向きには噂をけしからんとして活動し、裏では自分がその噂を信じている。私にはさっぱりだ」
「そうですね。むしろ彼こそ審問にかけられるべきなのでは」
「だろう?その裏の行動は司教会とは無関係な彼独自の行動のようだからね。しかし、かといってそれしきの事で彼を異端として司教会に訴えるというのもどうかと思ってね。現状、司教会から彼に撤収命令がかかるまで静観してるんだよ。……ところでジムゾン君、ミュンヘンに向かっているそうだが、あんな遠方から供も連れずにわざわざ歩いて来たのかい?」
「いえ、本当はサン・ドニまで巡礼に行こうとして、一時身を寄せていた実家から出てきたのです。だから連れも一人だけで。そのうち情勢が悪くなったので引き返そうとしましたが、折角南まで来ましたし、ミュンヘンも敵軍の占領から逃れたと聞きましたので……」
 よくもまあこうぽんぽんと口から出任せが出るようになったものだ。人狼としては良い傾向だと思いつつも、聖職者としての罪悪感がチクリと胸を刺した。しかしうっかり家の事を口にしたのが運の尽き、それからお父上は元気かだのミュンヘンの状況はこれこれだ、だのマテウスとの会話は夜中まで延々と続いたのだった。


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