【青の楽園 第四話】

日が昇り、うとうとしかけたアルビンの耳には心地よい小鳥のさえずりが聞こえていた。何時もなら一日の始まりを告げるさえずりは子守唄と化している。意識を暗転させかけたその時、耳をつんざくような悲鳴が響き、アルビンのみならず宿全体を眠りから覚ました。
泊り込んでいた全員の村人は寝巻きのまま部屋から飛び出し、何処で異常があったのかの確認を急ぐ。
「どうしたんですか。一体何が!」
アルビンと同じく見張り番をしていたディーターの姿を見つけてジムゾンは問う。が、答えは得られずまたもきつく抱き締められた。
朝の挨拶代わりにいちいち抱き締めないで下さい。そう言おうとしてジムゾンは青ざめた。ディーターが前にこうして自分を抱き締めた時はゲルトが死んでいたのだ。
やっぱり言わなくていいと言おうとしたジムゾンだったが時すでに遅く、無情にも耳元でディーターの声がそれを告げた。
「ニコラスがやられた…!」

「ぁぁあニコラス…ニコラスぅううううう…ぁぁあああぁぁ……。」
現場となったニコラスの部屋ではレジーナが血塗れの遺体に取りすがって泣いていた。既に確認したある者はしゃがみ、ある者は誰かに支えられながら呆然と視線を宙に彷徨わせていた。パメラはリーザやペーターと一緒にしゃがみ込んでガタガタ震えながら、昔祖父モーリッツに連れて行って貰った演劇を思い出していた。
ある悲劇の物語で、仇同士の家に生まれた男女のうち女が偽装で死んだのを見て真に受けた男が本当に死んでしまうのだ。目覚めた女はそれに取りすがって嘆き、後を追う。役者は皆大仰に泣き叫んだ。ああ、人の死に出くわしたら、とりわけ親しい人の不慮の死にあってしまったらきっと喉が裂けそうなほどに大声で泣き叫ぶ物なのだとパメラは思っていた。
だが現実は違った。怖かった。声も出なかった。仲を噂されていたレジーナや数名は嘆きの声を発していたが、どれもが力無い消え入りそうな声だった。悔しい時にはまだ声もでる。だが悲しみが先んじた時には声さえも出ないのだ。そして恐怖が心を覆った時には声も出せずに震えるしか無い。身を寄せて震えるペーターとリーザの体を抱いてやる事もできず、パメラもまた青ざめて震える事しかできなかった。

やがて騒ぎが落ち着くと皆は誰に呼ばれるでもなく一階に集まった。パメラやヨアヒム。そして子どもらは未だショックが抜けきれず寝巻き姿のままだった。
「ヤコブさんじゃない…。」
項垂れたアルビンは視線を床に落として呟く。あの後すぐにヤコブの確認に行ったが、やはり逃げ出した形跡は無く両手両足も縛られたままだった。しかもニコラスの殺され方は最初にゲルトが殺された時のそれとは少し違っていた。
「傷は数え切れない。鋭い刃物でメッタ刺しだ。…差し詰め凶器はナイフのような物、と言った所か…。」
トーマスは遺体を見た感想をそう語った。ニコラスは全身を刺されて死んでいた。致命傷となったのは心臓部への攻撃。全身に残る傷痕からニコラスが息絶えた後も犯人は馬乗りになって刃物を突き立て続けたのだろうと推測される。しかもゲルトと同じように腹部はかき開かれていた。そのおぞましい情景は想像に堪えない。
「ニコラスさんが殺されるなんて…。」
ジムゾンは口元を覆い、やっとの事で呟いた。ニコラスは元軍人で現役の傭兵だ。同じ元軍人でとうの昔に退役したトーマスでも凶器を持ったヤコブを倒せたのだ。何故ニコラスが殺されたのか納得できなかった。
「油断していた所をやられたのじゃろうな…。防御創は僅かにあったが浅く少なかった。最初の一突きで気付いて抵抗したという程度じゃろう。尤も、普通の人間なら不意打ちされたら防御するまで頭が回らんうちに殺されてしまうのじゃが。」
モーリッツは溜息をついて悲しそうに首を横に振った。

「何か知ってる者は話してくれ。何でもいい。」
「ニコラスは夜中の1時までヨアヒムと一緒にヤコブの番をしていた。俺とアルビンと交代して部屋に上がっていったところまでは見た。」
「私は相部屋でしたけど…交代で見張りを代わりましたからその後の事は…。」
「僕はニコラスさんと一緒に二階まで行ったよ…。僕の部屋は二階だから、階段の所で別れた。」
ヴァルターの問いかけにディーターとアルビン。そしてヨアヒムが答える。だがどれも犯人に結びつく物ではなかった。
「同じ二階で残っていた者…。ジムゾンにモーリッツ。戻ってきたヨアヒムに気付いたか?」
紙切れを見つめながらオットーが問うた。それは自作の宿屋見取り図で、各部屋の割り当ても書かれてある。


「いえ…10時からずっと眠っていましたから何も聞いてません。」
「儂は3時まで起きとったが物音まではのう…。」
「ちょっと待ってよ!それ、僕が疑われてるって事?!」
ヨアヒムがオットーに抗議する。だがとうのオットーは悪びれた様子もなくちらりとヨアヒムを見て紙切れを机に置いた。
「皆を疑ってる。この状況ではそうするしか無いだろう。」
嫌でも雰囲気が重たくなる。そんな中ジムゾンははたと気付いて立ち上がった。
「この事を司教様から警察に通報して頂きます!橋がかけられるのも早まるやもしれません。」
「ああ!伝書鳩が居たのだったな。よし、私も行くぞ。警察へは私からも一筆添えよう。」
「俺も行く。」
ヴァルターとディーターもそれに続き、三人で教会へ向かった。

ジムゾンの部屋の横につけた小屋に鳩の姿は無かった。餌を待ちくたびれて飛んでいってしまったかと思いたかった。だが小屋の扉は鍵がこじ開けられ、周りには白い羽根が散らばっていた。三人は焦る気持ちを抑えながら司祭館、そして礼拝堂までくまなく鳩を探した。
礼拝堂の扉の鍵を開けてジムゾンは絶句した。大して広く無い礼拝堂の床にはぽつぽつと羽根が落ち、祭壇の上には捜し求めていた白い鳩が居た。自身の赤い血に染まって。
「アストラ!!」
ジムゾンは悲鳴をあげて祭壇に駆け寄った。震える手で持ち上げると体は既に固まっていた。村への赴任を切欠に飼いはじめて一年余り。可愛がっていた鳩のアストラは何の温もりも無いただの物体へと変わり果ててしまっていた。

「悪趣味な野郎だ。」
事の経緯を説明し終えるとディーターは悪態をついた。ジムゾンは肩を落として椅子にかけ、泣き腫らした目でぼんやりと宙を見つめていた。あの後悲鳴にかけつけたヴァルターとディーターにアストラを見せ、教会裏の墓地の片隅に遺骸を埋めた。
「わざわざ祭壇で見せしめに殺すとは…犯人の持つ悪意が並々ならぬ物だという事だな…。」
ヴァルターは沈痛な面持ちで深い溜息をついて項垂れる。が、直後ガバッと顔をあげた。
「そうだ。ニコラスも放って置く訳にはいかん。…ミサは明日するとしてもともかく教会まで運ぶぞ。」
「…大丈夫です。今日あげましょう。」
ジムゾンは空ろな瞳のままだったがはっきりと言った。
「こんな事態だ。無理をしなくてもいいんだぞ。」
言い添えたトーマスにジムゾンは緩く首を横に振った。
「明日私の命が続いている保障もありません。生きているうちに、聖務はきちんと行いたいのです。」
ジムゾンの瞳に漸く生気が戻ってきた。唇を引き結び力強く立ち上がる。それを機に皆それぞれに動き始めた。トーマスらはニコラスの遺体を台車に運び、死んだように気落ちしていたレジーナも立ち上がって部屋の片付けに向かった。
悲しみに沈んでばかりはいられない。心を支配する恐怖の暗雲が生きようとする気力の風によって徐々に晴らされようとしていた。

「それにしても…どうしてニコラスさんが殺されなければならなかったのかしら。」
死者ミサが終わった後の宿屋への帰り道でカタリナがぽつりともらした。
「ニコラスを生かして置いたら自分の正体がばれると思ったんじゃないかな。」
さらりと返したオットーの答えに後ろから追いついてきたアルビンも頷いた。
「ニコラスさんは凄く精力的でしたもんね。」
「でも…引っかかるのですよね。こんな状況でしょう?ニコラスさんはそれを誰よりよく知ってた。」
「うん。だと思うよ。」
「油断した隙に襲われたと言う事でしたけど、ニコラスさんが皆にそこまで気を許したのかしら。」
カタリナが立ち止まり、それに倣ってアルビンやオットーも数歩進んで止まった。



「私、思うんです。そんな人が居るとすれば…レジーナさんかトーマスさんのどちらかじゃないかって。」
オットーもアルビンもきょとんとした表情でカタリナを見つめていた。やがて二人は顔を見合わせると苦笑を浮かべる。
「レジーナはちょっと違うと思うなあ…。」
「ですよねえ…。レジーナさんがニコラスさんを殺す理由が見えませんもん。」
「言ってたでしょう。相手は殺人集団の一員なの。理由なんて無いと思うわ。」
カタリナは本気だ。普段は物静かなのだが内に秘めた信念は固い。夫が出稼ぎに行っていて年に数度しか帰らず、ほぼ女手一つで娘のリーザを育ててきたという環境から培われた責任感の強さもそれを後押ししていた。一言で言うと頑固というやつだ。しかしカタリナは人の話に耳を貸さない性質でもない。言い張るからには何かの理由があるのだろう。
「うーん。でもさ、レジーナは自分の部屋に寝泊りしてるんだよ。もしニコラスを殺しに行こうと思ったら、ディーターやアルビンの前を通って行かなきゃいけないだろ。」
「そうでもないですよ。僕らの居た地下室の入り口からはレジーナさんの部屋に行くドアは見えないんです。階段があるし。


そもそもヤコブさんを見張る為だったでしょう。だから基本的に入り口に居ただけでディーターさんは時々外に出て煙草吸ってました。それに…私、時々眠っちゃってたんですよね…。」
申し訳なさそうにアルビンはオットーを見た。オットーはうーんと唸りながら腕を組む。
「レジーナさんならニコラスさんも気安く迎えたと思います。それからトーマスさんは同じ軍人さんだったでしょう。ジムゾンさんを助けた件も重ねて気を許していたと思います。
たとえばですよ。ニコラスさんが言っていたようにヤコブさんが協力者だとしたら。トーマスさんが犯人だったとしてヤコブさんを捕まえる事に何の抵抗も無い筈です。だからトーマスさんがジムゾンさんを助けたからといってトーマスさんが犯人じゃないとは言い切れないんです。」

「よう。何突っ立ってんだ三人とも。」
不意に聞こえた声に三人が振り向くとディーターが居た。
「ジムゾンは?」
ディーターとジムゾンは基本的に二人一組のセットだ。トーマスの話題だっただけにオットーはジムゾンの所在を気にしてしまう。
「ああ、あいつ教会の片付けしてんだよ。俺だけ外に出て待ってんだけど、お前らの姿が見えたから来てみただけだ。で、何だ。なんか面白い事でもあったのか?」
「実は…。」
オットーはちらちらと教会を見ながらこれまでの話をディーターに聞かせた。

「俺はずっとトーマスじゃねえかと睨んできた。」
話を聞き終えてディーターは静かに言った。その言葉を聞いて三人はどこかホッとしたような表情を浮かべた。ジムゾンと仲のいいディーターの事だ。友人の親は自分の親も同じ。話した所で怒鳴り出すのではないかとも思えていた。
「ンな事当然ジムゾンには言えねえがな…。…それとこればっかりは皆にまだ話せねえが、トーマスには前科がある。」
三人は一様に目を丸くして驚く。
「そ、その前科って。」
「言っただろう。まだ話したくねえ。それにモーリッツの推理ってだけで推測の域も出ない話だ。」
「解った。その事は聞かないからお前の所見を聞かせてくれ。」
オットーが焦るアルビンを押し止め、ディーターはチラッと教会を見た。まだジムゾンが来る気配は無い。
「少なくとも、ジムゾンの鳩を殺したのはトーマスだろうな。」
「ええっ?!」
思わず叫んだアルビンは咄嗟に自分の口を自分で塞ぐ。
「鳩小屋の扉はこじ開けられ、鳩は居なかった。そして礼拝堂の扉には鍵がかかっていた。にも関らず羽根は扉から真っ直ぐに祭壇まで散り、死骸は祭壇に置かれた。」
「だから、嫌がらせだろ?」
「ああ。だがそれだけじゃねえ。もう一度言うぞ。
“鳩小屋の扉はこじ開けられ”て“礼拝堂の扉には鍵がかかっていた”んだぜ。」

「あっ。」
カタリナが思わず声を上げた。
「犯人は礼拝堂の鍵を持っていたと言う事ですね?!」
つい急く気持ちがカタリナの声を上ずらせる。ディーターは黙って頷いた。
「礼拝堂の鍵。司祭館の鍵。悲しい事に親友の俺でも持ってないそれらの合鍵はトーマスだけが持っている。なんだかんだ言ってあいつ甘ちゃんだからな。サボッて寝坊した時はトーマスに礼拝堂だけは開けて貰ってるんだとよ。
昨日はヤコブを閉じ込めた後少しだけ皆作業しに自宅に戻ってただろ。トーマスは小屋に戻ったがジムゾンは戻ってない。」
「じゃあ、宿屋に帰ったら早速…。」
「俺は言わない。」
アルビンの提案をディーターはあっさりと断った。
「まだ確証じゃねえ。事実、さっきジムゾンにそれを言ったら引っ叩かれた。あいつによれば礼拝堂の扉は針金でこじ開けられるような代物らしいからな。皆が納得するかも怪しいもんだ。
それにトーマス一人と決まったわけじゃねえ。ここでむざむざ手持ちのカードを見せてニコラスの二の舞になるのはごめんだぜ。」
「なるほどね。」
オットーはニヤリと笑ってディーターを見た。
「俺も同じだよディーター。まだ奴らは皆殺しすると決まったわけじゃない。できる事なら一日でも長生きして一網打尽にしたい所だ。」
「ただ一つしくじってる。」
ディーターもまたニヤリと笑って両手をズボンのポケットに突っ込んだ。
「お前らの中にそいつが居たら、明日の命はねえけどな。」
「それならご心配無く。」
「夜ナイフ片手に枕元に立ってたらやですからね、ディーターさん。」
挑戦的な嫌味にカタリナもアルビンも笑って答えた。


ヴァルターが用事を済ませて自宅から出ようとすると突然ズボンの裾を引っ張られた。引っ張っているのはペーターだ。ペーターは長男のヨアヒムと十歳も年が離れて生まれた妻の忘れ形見である。ヨアヒムと違ってやんちゃに育ったが、母の居ない寂しさもあって二人きりで居る時はまだまだ甘えが抜けない。
「用事がある時はちゃんと口で言いなさいと言ったろう。」
たしなめながらもヴァルターはペーターに向き直って目線の高さまでしゃがんだ。
「お父さん。僕ね。」
ペーターは眉毛を八の字に曲げてヴァルターを見た。そわそわして何か迷っていたが、ぐっと唇を一度噛締めると口を開いた。
「僕ね、昨日。夜中にレジーナおばさんを見たんだ。」
一瞬ヴァルターには何のことなのか解らなかった。頭にはニコラスの遺体に泣き縋っていたレジーナの力無い姿だけがよぎる。
「夜中にね、おしっこ行きたくなったんだよ。お父さんを揺すったけど起きなかったから一人でおトイレにおりたんだ。一階におりたらアル兄ちゃんが地下室の前で眠ってて、ディー兄ちゃんは外で煙草吸ってた。僕がおしっこ済ませた後もまだそうだった。
それでね、三階に戻ったら丁度レジーナおばさんがニコおじさんの部屋に入って行ったんだよ。」
ヴァルターは目を見開いて思わずペーターの両肩を掴んだ。
「それは本当なのか。」
「うん。僕ちゃんとこの目で見たよ。ニコおじさんもレジおばさんも笑ってた。…その後の事は知らないよ。凄く眠たかったから、部屋に戻ったらすぐ寝ちゃったもん。」
ヴァルターは愕然としてペーターの肩から手を離した。一瞬、ヨアヒムが疑われているのを知ったペーターがヨアヒムを庇う為に嘘をついたのかとも思った。だが、ペーターはそんな姑息な嘘を思いつくような子ではない。親ばかではなく確信なのだ。
「よく教えてくれた!有難うペーター。さあ、もうお前は宿屋に戻りなさい。お父さんは少し調べ物をしてくるぞ。宿の皆には、お父さんは片付けがまだ終わらないと言っておいてくれ。…それでな…。」
ヴァルターはペーターの耳元で何事かを囁く。ペーターは真剣な表情で頷くと宿屋に向かって走り出した。

「何?おねしょしちゃったのかい?」
「ち、違うよ!お水こぼしただけだよ!」
意地悪いレジーナの言葉にペーターは顔を真っ赤にして叫んだ。見ればリーザはカタリナの膝に抱かれてくすくす笑っている。
「花瓶の水なんだったら!匂ったら解るんだ!」
ペーターはレジーナの背中を押して階段を上っていった。
「お婿さん候補はおねしょが抜けないなあ、リーザ。」
ヨアヒムは苦笑してリーザを見た。
「リーザはペーター君を信じてるよ。ペーター君はおねしょしてないって言ったでしょ。ヨア兄ちゃんはお兄ちゃんなのに信じてあげないの?」
「おおっ。愛の力は偉大だね。」
窘めるようなリーザのませた調子にヨアヒムは笑ってしまう。リーザはカタリナの膝からぴょんと下りて階段の上を見守った。まだ下りてくる気配は無い。
「やっぱり気になるんじゃないの〜?」
横合いからリーザを突っついたのはパメラだった。リーザはぎくりとした様子でパメラを見て頬を赤らめた。皆なんとか何時もの調子に戻っていた。これもまた束の間の平安なのではないか。そう予感しつつもカタリナは穏やかな目で見守っていた。

暫くして二人が下りてきた。レジーナの手には大きなしみのついたシーツが握られている。
「おー、でっかい地図だなあ。」
ディーターが茶化すとペーターはキッとディーターを睨んだ。リーザはまたくすくすと笑っている。
「良かったねえリーザ。あんたのお婿さんはもうおねしょなんてしないよ。」
レジーナがリーザに語りかけるとリーザはきょとんとしてレジーナを見つめ返した。
「これは水。おしっこじゃない。」
リーザは安堵の笑顔を浮かべ、ペーターはそれみたことかと憤慨した様子で皆を見回した。
「今日はもうお日様が沈んで乾かないから、また明日干すとしようねえ。今日は代えのシーツを使いな。」
そう言ってレジーナが自室へと向かう。すると突然、扉が開いた。誰も居ない筈の部屋から出てきたのはなんとヴァルターだった。何故そんな所から出てきたのかを問いかける事も憚られるような真剣な表情だった。
ヴァルターは扉を閉めると一歩前へと歩み、手に持っている何かを目の高さまで掲げた。それは、おびただしい血のついたガウンだった。
「これはどういう事なのか説明して貰おうか。」


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