【青の楽園 第一話】

「ああ、お前はなんていい子なんだろう。」
決り文句のような父の言葉を聞きながらジムゾンは二人分のコーヒーを淹れる。自分を誉める時にトーマスは必ずこの言葉を口にする。そして、次に続く言葉もまた決まっていた。
「聖母の衣と同じ色した瞳のように、心も清らなそれと同じ。可愛いジムゾン。お前は私の誇りだよ。」
毎度の事とはいえこう大仰に誉められると気恥ずかしい。そんなジムゾンの気恥ずかしさなどお構いなしに、トーマスは最愛の息子を抱き締める。ジムゾンが故郷の村に司祭として戻ってきたあくる日の事だった。

物心ついた頃からジムゾンはこの僻地の村で父トーマスと親子二人で生活してきた。トーマスはプロイセン軍の将校だったのだが、ジムゾンの母であるマグダレーネが亡くなってからこの村に引っ込んだのだと言う。母が亡くなった事に関してジムゾンは何も知らなかった。幼い頃の記憶はあやふやだし、母の事は一切思い出せない。何度かトーマスに聞いた事があったのだが、その度にはぐらかされてきた。しかしトーマスの態度や軍を辞めた事などから恐らく戦絡みで亡くなったのだろうと思われた。
神学校に入るよう勧めたのはトーマスだった。普通の親なら、ましてたった二人きりの親子なのだから手元に置いておきたいと思うのが当然のように思えた。だがジムゾンは父が自分を心から愛してくれているのを知っていたし、信心深い事も知っていた。それゆえ何の抵抗も無く神学校へと入った。やがてジムゾンは持ち前の勤勉さと信仰心の厚さから異例の早さで司祭叙階を受けた。
この村への赴任はジムゾンのたっての希望でもあった。ローマ人の老神父が亡くなってから無人になっていた教会を元に戻したかった。そしてなんだかんだ言って神学校に毎週手紙をよこしてきていた父の傍に居てやりたいとも思っていた。それを知ったトーマスは感激し、お決まりの文句を言うに至ったというわけである。

村での生活は順調だった。一応は僧籍に入っている身なので気安く実家に帰ったり、親子らしい事は表向きにはできない。だがそれを寂しく感じさせないほど古くからの知り合いの村人はジムゾンに好意的だったし、旧友のディーターもしょっちゅう教会へ遊びに来た。ジムゾンはかつてなく満ち足りていた。そして、この先もきっと幸せな日々が続くのだと信じて疑わなかった。

そんなある日、ディーターが肩に包帯を巻いて来た。心配するジムゾンにディーターは大した事の無い打撲だと告げた。何時ものように淹れられたコーヒーを啜りながらディーターは少し考えて口を開いた。
「落ちてきたのがでかい石じゃなかったらな。」
「えっ…?」
「怪我自体は大した事ねえし、上から物が落ちてくるのもそう珍しい事じゃねえ。問題は、なんであんなでかい石が屋根から落ちてきたかだ。」
ディーターの話によると、ヤコブの馬小屋近くを歩いていた時にいきなり上から石が降ってきたのだという。ジムゾンもさすがに困って眉根を寄せる。故意に落とされた事を認めざるを得ない事実しかないが、認めるのが怖い。何故ディーターが狙われなければならないのか。石は大人の頭ほどの大きさがあったという。ペーターやリーザのいたずらとは考えられない。第一、ディーターが咄嗟に避けたから肩のかすり傷だけで済んだのだ。もし頭に直撃していれば今頃ディーターは墓の下だったかもしれない。ここまできたら明確な悪意さえ感じる。
ディーターの話では今日ほど顕著ではないが、似たような出来事が最近頻発しているという。
「また良くない事に手を染めているんじゃないでしょうね。」
「またとは何だよ、またとは。」
「もしくは女性に破廉恥な事をしたとか。」
「これでも更生したんだぜ。イカサマもやってねえし、女にだって手なんかださねえよ。…お前が帰ってきたんだし。」
語尾はぼそぼそと聞き取り難かった。ディーターは柄にも無く照れて明後日の方向を向いている。ジムゾンはきょとんとした後少しだけ笑った。だがすぐに顔は不安げなそれに戻る。
「でもほんとに。気をつけてくださいね。」
「ああ。」
「気の所為だと良いのですが…。」
願いが虚しい事を知りながらジムゾンは嘆息する。あれだけ奔放に暮らしてきたディーターだ。今は何もしていないとはいえ、知らぬ所で恨みを買っているのかもしれない。
幼い頃のディーターは手に負えない悪童だった。ジムゾンともお友達になりましょう、そうしましょうという牧歌的な出会いでも付き合いでも無かった。何処へ行ってものけ者にされるうさ晴らしかディーターは何時もジムゾンにちょっかいを出していた。当時はジムゾンもそれなりに正義感が強く売られた喧嘩はしょっちゅう買っていた。今では考えられないがジムゾンの方から仕掛ける事もあった。そうやって一々カッとして相手をしてくれるのが嬉しかったのだろうとディーターは振り返る。
拳で語るとはよく言ったもので、年がたつにつれてお互いに幼さが抜け気付いた頃には無二の親友になっていた。喧嘩をする時は派手にやらかしたが、それだけ強いお互いへの信頼があるのだった。

その数日後、今度はジムゾンの身辺で異常がおきはじめた。最初は執務机に落書きをされた。それも赤いペンキで『呪われし者どもは地獄に落とされる』と。次いで服が盗まれた。靴下やら下着など細々した物ではあったが、薄気味が悪い。次第に恐ろしくなり始めたジムゾンは一時実家に避難する事にした。
「一体誰がそんな事を。」
誰に言うでもないトーマスの問いにジムゾンは沈黙で答えた。皆優しくしてくれているのに。一体誰が自分を憎んでいるのか。皆の笑顔や親切な言葉が微かにウソのように思えて心は疑心暗鬼に染まりつつある。間違いなく自分の味方であるトーマスが怒りを露にしてくれた事は少しの救いだった。
「ディーターじゃないのか。」
突然のトーマスの言葉にジムゾンは顔を上げた。
「あんな素行の悪い男ならやりかねないぞ。」
トーマスは何か確信でもあるのか露骨に憎悪の表情を浮かべている。訝しげなジムゾンの様子などお構いなしに忌々しそうに語り続けた。
「私は反対だったんだ。あんな教養も無い卑しい身分の男とお前が付き合うのは。お前はあの男が更生したと言うが、人間の性根なんて物はそう気安く変わる物じゃない。
お前が帰ってからずっと教会に押しかけているだろう。お前に変な事を吹き込んだり、金の無心でもしているんじゃないだろうな。」
「ディーターはそんな人じゃありません!」
ジムゾンはたまりかねて叫んでいた。
「彼はたしかにならず者だけど今はもうすっかり足を洗っています。心根が悪いのではなく、状況が悪かったのです。本当はとても思いやりのある人なんです。」
声の調子はおさえていたが、それでもはっきりとした反論だった。ジムゾンの剣幕と睨みつける青い瞳にトーマスは驚いていた。今までジムゾンがトーマスに歯向かった事はただの一度も無い。それだけにこのジムゾンの態度はトーマスにとって衝撃だっただろう。
驚いて二の句もつげないトーマスの姿に漸く気付いてジムゾンは視線を落とした。厳格な気質の抜けないトーマスにとってのんだくれの父とだらしない母との間に生まれ、その上早くにどちらも亡くしてすさんだ生活を送っていたディーターには良い印象など持たなくて当然だろう。ジムゾンのする事を何もかも赦してきたトーマスだったが、ディーターと付き合う事だけは昔から嫌がっていた。そんなトーマスのディーターへの悪口を咎めても仕方が無かったし詰る度合いも大した事は無かったのでジムゾンは長らく聞き流していた。
そうだ。咎めても仕方ないのだ。ジムゾンは就寝の挨拶もせず釈然としない気持ちを抱えたまま寝室に引っ込んだ。実家に戻っている事もあってか、その言い合いを除けば何事も無い夜だった。


翌日ジムゾンが昼近くに目を覚ますと顔中がごわごわしているのに気付いた。丁度こぼれた蜂蜜を拭き忘れて固まってしまったあとのように。
何かの弾みで夜中に盛大なくしゃみをし、出てしまった鼻水を拭かないまま朝を迎えたのかもしれない。異変というには小さな出来事だったが時期が時期だけに何かしらの不安もある。トーマスはもう森にでかけてしまっていたのでジムゾンはディーターに相談する事にした。
「あ、一つ解ったのは、微かに生臭い臭いがした事です。」
ジムゾンの説明を受けてディーターは顔を強張らせた。
「魚が腐ったような臭いでした。…たぶん、鼻水なんだと思うんですけど。」
ジムゾンは恥ずかしそうにうつむいた。だが一笑に付すものと思っていたディーターは予想に反して険しい表情を浮かべていた。
「モーリッツん所に行くぞ。」
「へっ?」
いきなりディーターはジムゾンの腕を引っつかんで立たせた。ジムゾンはわけもわからぬままディーターに従うしかなかった。

「うむ…たしかにジムゾンの母親は戦争で死んでおる。」
棚に収まりきれぬ本がうず高く積まれた書斎でモーリッツは重い口を開いた。ディーターもジムゾンも真剣に耳を傾けているが、ジムゾンは何故急にこんな事をディーターが知りたがるのかわけがわからなかった。
モーリッツはこの村の長老だ。変な実験や怪しげな事ばかりしているので皆には少しばかり変人扱いされているのだが、そういう面を除けば実に博識な生き字引であった。ジムゾンもモーリッツならそういう話を知っているかもしれないとは思っていたが、いまいち接点がなくて聞くまでには至らなかったのだ。
「これはトーマスに口止めされていたのじゃがな…。」
「何でもいいから教えてやってくれ。さっき説明しただろ。」
話すまで放さない。そんなディーターの喰らいつくような視線に折れてモーリッツは渋々語り始めた。
「…同時にな。父親も死んでおるんじゃ。」
ジムゾンは目を見開いたままその場に凍りついた。
「トーマスはお前の本当の父親、同じ将校のレオンハルトの友人じゃった。普仏戦争は知っとるじゃろう。その時にレオンハルトは戦死し、妻マグダレーネもやられた。」
モーリッツは申し訳無さそうにジムゾンを見ながら続けた。
「それで、トーマスは親無しになってしもうたお前を引き取ったというわけじゃ。」
「ジムゾン。」
ディーターに揺すられてジムゾンは漸く我に返る。
「そう…だったんですか…。」
たしかに衝撃だった。あんなに優しい父が赤の他人だったなんて。それでも元々母無しだったのは変わらない。今更父が本当の父じゃなかったと知った所で、絆も変わらない。ジムゾンは僅かに顔に笑みを取り戻した。だがモーリッツやディーターの表情は晴れない。
「言っていいものか…。わしも心苦しい。まあ…憶測じゃという事で聞きなさい。…レオンハルトは味方に、戦死と見せかけて殺されたという見方が一番強い。」
ジムゾンは再び目を見開いた。
「元々あの戦争はプロイセン優勢でそもそもレオンハルトが戦死するような物でもなければ、軍人の妻とはいえ民間人のマグダレーネが殺されるような物でもなかった。事実、犠牲者は少なかったのじゃからな。
これは知られていない事なのじゃが…。…トーマスは密かにマグダレーネに想いを寄せておってな。表向きには二人を祝福していたが、実際は心の奥底で嫉妬の炎が燻り続けていた。
お前を養育したのも表向きには親友の子だからという事になっとったが…。終に手に入らなかったマグダレーネの面影をお前に見出し、その代わりとしたのじゃろうの。
儂は、トーマスが二人を殺してしまったのではないかと推測しとる。」

そこまで聞いてジムゾンは思わず耳をふさいだが、ディーターがその腕を掴み押し止める。
「信じたく無いかもしれないが、聞いてくれジムゾン。お前の身に関る事なんだ。」
「嘘…嘘です、そんな事!」
静かに言い聞かせるディーターを見ようともせずジムゾンは目をかたく閉じて首を横に振る。
「…仮に私の本当の両親が味方に怨恨で殺されたとしても、それが父の…トーマスの犯行だという証拠はあるのですか?!」
ジムゾンに食って掛かられ、モーリッツは困ったような表情を浮かべた。
「あくまでも儂の役人時代の憶測に過ぎんよ。証拠不十分がゆえに取り沙汰されなかったのじゃから。…じゃがなジムゾン。トーマスはお前や皆が知っている姿からは想像もできんほど冷酷な一面を持っておる。例によって証拠は何も無いが、儂はそれをよう知っとるんじゃ。」
「……く…。」
何時の間にかジムゾンの瞳からは涙が零れ落ちていた。信じたくは無いが過去の出来事に関しては自分よりモーリッツの方が当然よく知っている。それにモーリッツが妄想と現実の区別がつかないような人間でも無ければ、もうろくしているわけでもない事もジムゾンには解っていた。返す言葉も無くジムゾンが泣きじゃくっているとディーターが両肩をがっしりと掴んだ。

「…いいか。この村にお前を憎んでる奴なんて居ない。俺はまあ…無いとは言い切れないが、お前は無い。皆無だ。だとすれば何故?何故お前は嫌がらせを受けると思う?何故俺と同じ時期に?
状況を整理しようか。俺とお前は親友だ。仲がいい。…いいよな?違うって言ったら泣くぞ。そして俺は危うく死にそうな目に何度も遭った。対してお前も確かに嫌がらせは受けたが、どれも死に直結する物じゃない。
つまりはお前に異常なくらいの執着心を持っていて、俺が憎くてたまらない人間の犯行だって事だ。それが誰なのか俺の口からは言わねえぞ。だが、誰だか解るな?」
ジムゾンはディーターを睨んだ。しかし真正面から見据える真剣な眼差しに気圧される。それにトーマスがディーターに並々ならぬ憎悪を抱いている事は昨夜の言い合いで証明されていた。次第にジムゾンの顔は情けなくゆがみ始める。トーマスがあんな事をしたとは思いたくない。過去にした事も認めたくない。だが積み上げられる事実と推測は何の抵抗も無くかみ合ってしまうのだった。
顔を覆って嘆くジムゾンに少し戸惑うもののディーターは話を続けた。
「地獄の云々はお前への警告。服が無くなるのは異常な執着のあらわれ。そして、今日お前の顔にこびり付いてたのは鼻水でもなけりゃ腐った魚の汁でもねえ。十中八九、精液だ。」
ジムゾンは肩を引きつらせてひっと息をのんだ。体が硬直し、全身の血の気が音を立てて引いていく。ジムゾンが情景を想像してしまうのを防ぐ為、ディーターは一気にまくしたてるように言葉を続けた。
「潔癖なお前は臭いなんか知らねえだろうな。そして、何でそういう事をすんのかもわからねえだろう。だがこの状況が続けば最悪の事態もあり得る事だけは確かだ。だから俺は敢えてモーリッツの所に連れて来た。
…すまねえ。俺は前にモーリッツから聞いてお前んちの事情は知ってたんだがトーマスは今全く問題がねえし、お前の幸せに水をさすみたいで悪いと思って黙ってた。」

ジムゾンは緩く首を横に振った。ディーターはトーマスの過去を知っても今のトーマスを信じていた。それは、ディーターが過去の悪行から本当に更生した事を如実に表していた。
トーマスの過去が悲しかった。けれどトーマスに歯向かってまでディーターを信じていた心だけは裏切られずに済んだ。複雑な思いを抱えながらジムゾンの顔にはほんの少しの笑みが浮かんでいた。

その夜ジムゾンは宿屋に泊まる事になった。ディーターの家という手もあったのだが、火に油を注ぐ結果になって一足飛びでジムゾンの命まで脅かされてはたまらない。それで人目のある宿屋なら安全だろうという結論に至った。報告を書くのに集中したいのだとか適当に理由をつけてジムゾンは宿屋に向かった。

「人狼なんてさあ、居るわけないじゃん。」
ジムゾンが気の乗らない食事をとっているとカウンターの方から笑い声が聞こえた。短い金髪を揺らして笑う青年はゲルトだった。 カウンターの向こうでレジーナも苦笑し、ゲルトの横に座っている行商人のアルビンだけが真剣な顔をしていた。
「いいや、あれは人間のやる事じゃなかったですよ!私この目でしかと見ましたもん。海辺のへんで暴動があったなんて話も聞かないし。」
どうやら話によるとアルビンがこの村と同じように何時も立ち寄る村が壊滅していたらしい。人っ子一人おらず数件の家では死後数日が経った惨殺体が転がっていた。墓地には木を組んだだけの簡素な新しい墓が並び、村中央の広場にある大木には輪の形に結わえられた縄がぶら下がっていた。それはまさにおとぎ話の人狼の災禍を彷彿とさせる物だった。
「おとぎ話って事実も混じってるんだよね。」
笑みを浮かべたままゲルトは妙な事を言い出した。先程自分で一蹴したばかりだというのに。
「だからアルビンが見た事は本当だと思う。だけど殆どはお話の為に作られた嘘。」
「ど、どっちなんですか。」
アルビンは困った表情を浮かべて戸惑う。

「無差別な殺戮はある。だけど化け物なんていない。」
ゲルトは相変わらず涼しい顔でエールをあおった。空になったジョッキをカウンターに置くと体ごとアルビンに向き直る。
「これは僕が勝手に研究した事なんだけどね。人狼っていうのはある犯罪組織。結社みたいな物を指すんだよ。」
「はあ。」
アルビンは拍子抜けした声を漏らした。
「自分たちの罪を正当化する異常者の集団って事さ。罪と一口に言っても、殺人に限定されるけど。」
「盗人集団の盗賊みたいに殺人をする殺人集団…ですか?」
先程まで架空の人狼の存在を熱心に論じて信じていたくせに、アルビンは訝しげにゲルトを見た。
「そうさ。彼らは自分たちを神の代行者と名乗っているらしいよ。普段は全くの善良な人間のふりをしているけど、ある切欠で行動を起こす。また、秘密は絶対に守られなきゃいけないから身の上がバレそうになったら知っている人間を無差別に殺し始める。それが何時の間にか人狼と呼ばれるようになってお話になったってわけさ。
信じられないかもしれないけど、夜になると変身する化け物なんかよりよっぽど信じられないかな?」
アルビンはむうと唸って考え込んだ。ゲルトは追加のエールをレジーナに注文すると話を続ける。
「彼らの正体はあまり詳しく知られていない。何せ表立った資料なんて人狼のおとぎ話くらいだからね。」
「んー、でも教会の…。」
アルビンは口を開きかけてふとジムゾンに気が付いた。ジムゾンはスプーンを口に運ぶ手を止めてアルビンを見ている。アルビンは慌てて目を逸らして声をひそめた。
「…教会の禁書ってやつには載ってないものでしょうか?」
「いやあ、彼らは異端者でもかなり特殊な部類に属するから関連した禁書も無いんじゃないかな。
どんな異端であれ教義が先にあって後から実践が来るのに対して、彼らのやってる事と言ったら実践先にありきで教義とか組織なんてものは都合のいい道具みたいなもんだからなあ。解ってるのはグノーシス主義のカイン派から派生したらしいって事だけさ。
…おっと。こんな事喋ってるのをひょいと彼らに聞かれたら怖いね。」
そう言ってゲルトはまた笑う。怖がりのアルビンは半信半疑で苦笑していた。そんな彼らの様子を見ながらジムゾンは何時の間にか食事を終えていた。汚れた食器を重ねてレジーナに渡すと酒を飲むでもなく大人しく部屋へと戻った。


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